時を超えて

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多分、人智では計れない愛の形も、存在すると思う。ここは、そんなエリア。
時を超えて
古い時計が、午前零時を告げた。
その音を聞いた瞬間、彼はなぜか、遠い昔の街角を思い出した。
夕暮れの駅。
赤いポスト。
喫茶店の窓に映っていた、ひとりの女性。
名前は思い出せない。
けれど、彼女が最後に言った言葉だけは覚えている。
「いつか、あなたの心の中に残る手がかりを探して」
あれから何十年もたった。
机の引き出しを整理していると、一枚の古い写真が出てきた。
裏には日付と、短い文字。
――あなたが忘れた場所に、私はいます。
彼は写真を持って、夜の街へ出た。
昔の駅はなくなっていた。
喫茶店も、赤いポストもない。
それでも、街角を曲がったところに、小さな時計店が残っていた。
店の奥で、古い時計がひとつだけ動いている。
その針が午前零時を指したとき、店主が静かに言った。
「ずいぶん遅かったですね」
彼は驚いて顔を上げた。
「……私を知っているんですか?」
店主は答えず、一通の封筒を差し出した。
封筒には、あの懐かしい文字があった。
――あなたがここまで来ることを、私は知っていました。
彼は封を開けることができなかった。
怖かったのだ。
そこに何が書かれているのか。
そして、本当に時を超えて誰かの心とつながってしまうことが。
しばらくして、彼は微笑んだ。
手がかりは、きっと外にはない。
ずっと、自分の心の中を巡っていたのだ。
時計の針が、静かに一周する。
そして彼は、封筒を胸にしまった。
「明日、開けよう」
そう言って、夜の街へ歩き出した。
時を超えて残るもの。
それは、言葉でも写真でもなく、
誰かを想い続けた心、そのものなのかもしれなかった。


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